案件背景
2022年4月13日、Y社は王氏に対して「あなたは第一四半期のノルマを達成できませんでした。日頃の勤務態度にも問題があるため、2022年4月18日から3か月間、研修を受けて頂きます。具体的な内容は後日改めて通知します。研修期間の振る舞い方や学習態度は、会社の人事評価基準に基づき評価されます」というメールを送った。
王氏はこの会社の処置に反発し、これまで通りの職務に留まることを求めたが、会社とは合意に至らなかった。
Y社は2022年6月14日、王氏に「労働契約解除通知書」を送付した。その主な内容は「あなたが担当していた業務の売り上げは第一四半期に前年比マイナスになった。会社はあなたのパフォーマンスを改善する必要があると判断し、2022年4月18日から3か月間の研修を受けるよう求めた。しかし状況は、あなたがこの研修を拒んだまま今日に至っている。会社は幾度も電話やメールであなたとの対話を試み、このままだと無断欠勤と見做さざるを得なくなることを警告した。そうした注意喚起を無視し続けるあなたをそのままにしておくわけにはいかず、会社はやむなく労働契約法第39条第2項や会社の勤怠休暇管理規則(2021年改訂版)に基づき、あなたが会社の就業規則に重大な違反をしたと判断し、会社の経営幹部や工会の承認を正式に得た。ここにあなたとの労働契約解除を通告する」というものだった。
主な争点
会社が求めた研修に対して参加拒否したことは無断欠勤に該当するか。王氏の態度や行為は会社の規則に対する重大な違反に相当するか。
一審判決
Y社は王氏に研修を受けるよう指示した理由として、第一四半期のノルマが未達で、日頃の勤務態度にも問題があることを挙げた。これは王氏の業務遂行能力と勤務態度に対する否定的な評価であり、懲罰的な意味合いが含まれたものであり、一般的な研修とは違ったものであった。王氏が研修を拒否した後、Y社は研修の必要性自体について丁寧な説明は行わなかった。また、ノルマ未達や勤務態度の問題について客観的な証拠を提示しておらず、研修を受けるべき根拠となるものが欠けている。以上のことから、一審は、研修参加を会社が王氏に求める合理性や必要性がはっきりしないまま、無断欠勤を理由に労働契約を解除したことは不当解雇に当たると判断し、会社に対し王氏への賠償金の支払いを命じる。
二審判決
Y社は「王氏が担当する職務は会社でも重要な位置付けにあり、その業績が前年比マイナスだったことは経営的に深刻な影響が出る。これを改善するため研修を受けるよう要求したところ、王氏が拒否したため、これを重大な規則違反と見做して労働契約を解除した」と主張した。しかし、Y社は王氏にノルマ未達などパフォーマンスに問題があったことについて、客観的かつ充分な証拠となる情報を提示できなかった。一方、王氏は会社のこの主張を覆す証拠となる業績記録が表示されているパソコン画面のスクリーンショットを提出している。こうしたことから二審は、Y社は研修の必要性を客観的に説明できず、いきなりメールで研修を受けるよう要求し、参加しなかったため無断欠勤扱いにしたという、社員に対し一方的な処分をしたと判断せざるを得ない。よって、研修の必要性や関連する会社の制度について充分な説明を行わず、Y社が王氏と労働契約を解除したことを、法的根拠を欠く不当解雇と見做し、Y社に対し王氏への賠償金支払いを命じる。
藍白評論
本件で、会社は社員に研修を拒否されたことを発端に、最終的にその社員が重大な規則違反したと判断して労働契約を解除しました。最も顕著な問題だったのは、研修参加を求めた最初のメールに、この社員が研修を受けなければならない理由に客観的な根拠が欠けていたことです。通常、会社が社員の業務遂行能力の不足や重大な規則違反を指摘する場合、社員の状況について客観的かつ充分な証拠を提出することが仲裁や裁判で求められます。実際の裁判でも、Y社は王氏のノルマ未達や問題があった業務態度について具体的なデータや充分な証拠を提出できませんでした。これが影響し、会社は王氏にもともと否定的な見方を持っていて、きっかけを作って個人的に狙い撃ちをして研修を受けさせようとした疑いが高まりました。結果、社員が研修を拒否したことに合理性があると認められ、社員は従来の職場で正常に出勤していたので、無断欠勤にも当たらない、などの判断が下されました。
企業の雇用管理に関する自主性は法的に保障されており、会社が経営状況や社員の能力などを総合的に判断して、研修を受けるよう求めることに本来なんら問題はありません。ただし、その研修を社員が受ける必要性を、データや証拠で客観的に証明することが前提条件となります。研修を受けるべき合理的な理由が揃っていれば、社員は会社の指示に従って研修を受けなければならず、正当な理由なしに拒否した場合は、会社はこの社員を規則違反として処分することができます。本件では、Y社は王氏が能力不足で担当職務に不適任だという理由だけで、解雇することは法的リスクが高いと考えたようで、最終的に規則違反を理由に解雇する方法を選びました。Y社の思惑ははずれてしまい、研修の必要性を証明する客観的な証拠を用意しなかったことが主な敗訴の要因となりました。もし王氏の能力が同じような職務を担当する社員と比べ大きく劣ることを証明するデータや証拠を揃え、王氏本人にも研修を受ける必要性を合理的に説明できていたら、裁判結果は違ったものになっていたでしょう。また、労働契約の解除については、王氏が正当な理由なしに研修を拒否した時点から、Y社は警告すると同時に積極的な対話の場を設け、その警告の回数や程度が会社の就業規則で定める解雇に至るレベルに達してから、契約解除の通知を出すというプロセスを踏むべきでした。以上のように、社員の能力不足や勤務態度の問題に関しては、会社の主張を裏付けるためにどんなデータや証拠を用意すべきか、会社の就業規則ではどのような段階を踏んで処分を行うように定められているかなどをよく確認した上で、会社としてアクションを取ることが重要です。
編集担当
钱文漪
パートナー
ivy.qian@lanbailawfirm.com
唐亦欣
パラリーガル
yixin.tang@lanbailawfirm.com
翻訳監修
草野玄
シニアアドバイザー
kusano.gen@lanbailawfirm.com
藍白は、中国の労働法を専門領域として企業の人事労務管理をサポートする法律事務所で、2007年7月に労働契約法の公布と同時期に設立されました。17年以上にわたって業務を拡大し、企業の労使紛争にかかわる訴訟代理のほか、人事システム設計、人事リスクヘッジ、雇用方式の最適化、重要人材のリテンションなどに関するアドバイザリーや大規模な余剰人員整理や再配置プロジェクトの立案と実行支援を提供しています。これまで4000件を超えるの労働訴訟を担当し、対象者総数30000人に及ぶ150件の人員整理プロジェクトを解決に導く実績を重ね、内資外資を問わず、幅広い業界のトップ企業から深い信頼と高い評価を頂いています。
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