「会社法」改正における有限責任会社に関する要点について(二)

文摘   2024-06-28 11:24   日本  
ダン・リーグ法律事務所
エクイティパートナー弁護士 張 磊



有限責任会社の設立と組織構造

1. 出資払込期限
 周知の通り、2013年版の「会社法」では、従来執行されてきた登録資本金法定制度から登録資本金引受制度へ変更され、即ち法律法規に別途規定がある場合を除き、会社の株主はその出資を引き受けることができ、定款に払込期限を定めることができることになった。
 実務では、その後、長い払込期限を設定したやり方が出てきて、数十年或いはそれ以上の年数内に出資を払い込むと規定したケースも出た。これは創業を便利にした一方、取引リスクをもたらしたと考えられている。今回の改正に先立ち、最高人民法院による司法解釈の中で、会社が清算や破産手続きに入った場合、規定された出資期限が満了していなくても、株主に出資全額の早期払込を要求することができると規定するなど、出資引受制度の乱用を制限する試みが見られた。
 今回の改正版によれば、法律法規又は国務院に別途規定がある場合を除き(現在の多数意見によると、法律法規又は国務院に別途規定があったとしても、より短い払込期限を規定するなど、「会社法」の規定よりも厳しくなる可能性が高い)、全ての出資は会社設立後5年以内に払い込まなければならず、5年内に定款において払込期限を調整する規定をすることができる。
 また、改正版の附則の規定にも留意する必要がある。登録済みの会社は、出資期限が本法の規定と一致しない場合、5年間の要求に合うように次第に調整しなければならない。出資期限、出資額の規定が明らかに異常であれば、市場監督管理部門は調整を要求する権利があり、具体的な調整方法は国務院が別途制定する。
 注:今回の改正では、出資期限の新規定以外にも出資に関する規定は幾つかある。例えば、期限通りに出資を払い込んでいない株主は会社に与えた損失に対して賠償責任を負うこと、設立時の株主は他の株主の不実ある出資又は出資不足に対して連帯責任を負うこと、董事会は期限を定めて期限通りに出資を払い込んでいない株主を督促すること、督促を受けても出資を払い込んでいない株主はかかる権利を失うこと、株主の出資引き揚げに責任を負う董事、監事、高級管理職は連帯賠償責任を負うこと、会社が期限切れ債務を返済できない場合、債権者は出資期限が到来していない株主に対して出資義務の早期履行を主張できることなどである。これ以上は述べない。


2. 株主の知る権利の更なる強化
 今回の改正では、株主は会社の会計帳簿と会計証憑を調べる権利があり、かつ法律事務所、会計士事務所などの外部仲介機関に委託して調べる権利があること、株主の知る権利はその投資した会社の完全子会社にも及ぶことが明らかにされた。


3. 株主会、董事会、監事会、総経理の設置及び職権の調整
1)株主会、董事会、総経理の職権の調整
  • 株主会の職権
 今回の改正では、株主会の職権について、「会社の経営方針と投資計画を決定する」、「会社の年次財務予算案と決算案を審議承認する」が削除され、「会社の債券発行に関する決議を行う」権限を株主会が董事会に与えることが認められた。
 会社の運営にとって、経営方針、投資計画、予算と決算は、依然として重要であり、株主間の紛争を引き起こしやすい。株主会が討論すべきなのか、より専門的な董事会チームに討論してもらうべきなのか、それともプロフェッショナルマネージャーに任せて決定してもらうべきなのかは具体的な経営管理事項であるため、強制的な法律規定を制定する必要はない。よって、これらの権限を削除し、会社に定款で規定させることは、会社がより効果的な意思決定メカニズムを選択するのに役立つと思われる。
  • 董事会の職権
 董事会の職権に関する最も大きな改正は、定款以外に、株主会も董事会に職権を与えられるようになることにある。当該改正によって、董事会がより経営決定をしやすくなり、特に株主構造が簡単で、外国側株主が直接董事を派遣又は推薦する外資企業にとって、会社運営の柔軟性が高められる。
  • 総経理の職権
 今回の改正では、現行の「会社法」における総経理の職権が全て削除され、「総経理は董事会に責任を負い、会社定款の規定又は董事会の授権に基づいて職権を行使する」に変更された。言い換えれば、今後、総経理の職権に関する法律規定はなく、会社の定款又は董事会の授権文書によって確定される。
 経営管理の利便化の視点から見ると、このような変更は、会社が比較的に自由に総経理の権限を設定することを認め、元の法律規定における権限より多く設定してもよいし、少なく設定してもよい。実務においては、当該変更に伴い、ビジネス協議の相手が先方の総経理である場合、先方の定款を調べて同総経理に取引を決定する権利があるかどうかを確認することが必要になるかと思われる。(現在、一部の地域だけで弁護士を通じて企業の登録資料を調べることができる)。

2)監事会設置の必要性の低下

 現行の「会社法」の規定では、監事会又は監事は会社組織構造の必要な一部である。今回の改正により、監事会や監事の設置の必要性はやや低下された。改正後、会社は以下のいずれかを選択することができる。
 A:董事会を設置し、かつ監事会を設置する。
 B:董事会を設置し、董事会において監査委員会を設置し、監事会を設置しない。   
 *一定の規模があり、株主数も比較的に多い会社に適用する。
 C:董事会を設置せず、董事会の職権を行使する董事を1人置き、かつ監事会を設置せず、監事を1人置く。
 *株主数が少ない又は小規模の会社に適用する(株主数が少ない又は小規模に関する明確な法定基準はないが、通常、2、3名の株主がある場合は株主数が少ないと考えられている。従業員数300人以上の会社は従業員董事を置くという改正後の会社法の第68条から見れば、300人以下の会社を小規模と見なすことができる)。
 D:董事会を設置せず、董事会の職権を行使する董事を1人置き、株主の合意を経て監事も置かない。
 外資企業の場合、一般的に株主数が少ないという条件に合致するため、今後監事会、監事を設置しないことが考えられ、会社の構造を簡素化し、管理と経営を利便化するのに役立つと思われる。

3)従業員董事と従業員監事の設置

 現行の「会社法」によると、国有企業又は国有企業が投資する企業は従業員董事を置かなければならない。監事会を設置する場合(国有企業であるかどうかにかかわらず)、1/3以上の従業員監事を置かなければならない。
 改正後の「会社法」は民主的管理への従業員の参加を保障することを強調し、柔軟性のある対応方法を認めている。具体的には、一定の条件(従業員300人以上)を満たす場合、董事会又は監事会のメンバーになる従業員がいなければならない(董事会に従業員董事を置くか、又は監事会を設置し、1/3以上の従業員監事を置く)という規定が新規追加されたが、上述の通り、従業員監事を置く場合、従業員董事を置かなくてもよい。言い換えれば、従業員董事と従業員監事を同時に置く必要はない。これにより、会社が民主的管理を実施する方法がより多様で柔軟になる。
 従業員董事、従業員監事をどのように設置すべきかは、あまり注目されていない。24年7月1日に改正版の会社法が施行された後、従業員の民主的管理への参加が強力に推し進められるかどうかはまだ分からないが、その可能性は排除できない。一部の外資系大手商社、メーカーは、従業員董事、従業員監事にどのように対応するかを考える必要がある。
 また、董事は会社の経営管理に深く参与し、監事は会社の経営状況を把握した後に経営陣、管理層を監督する役割を果たすことが多いため、確かに設置する必要はあるが、従業員が実際の経営決定にあまり参与しないことを希望した場合、従業員監事を置くことが考えられる。

4)董事の任意解任

 今回の改正では、株主会は随時に董事を解任する権利があることが明らかになった。但し、その解任に合理的な理由がない場合、董事は賠償を主張する権利がある。
 任意解任については、これまで明確な規定はなかったものの、司法実務において支持されるケースは多い。董事が賠償を主張できる権利についての規定は初めてである。
 外資企業の場合、董事が管理職を兼任している場合を除き、董事就任による報酬を受けないのが一般的である。解任時に賠償を主張できるかどうかには疑念がある。念のため、少なくとも現地で選任された董事の任命、解任などの事由を事前に合意しておくことを提案する。


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