「会社法」改正における有限責任会社に関する要点について(三)

文摘   2024-07-01 12:56   日本  
ダン・リーグ法律事務所
エクイティパートナー弁護士 張 磊


董事、監事、高級管理職の資格と義務
 今回の改正において、董事、監事、高級管理職の義務も多く改正された。その中で注目すべき内容は以下の通りである。

1. 忠実義務、勤勉義務の定義

 董事、監事、高級管理職が会社に対して負うべき忠実義務、勤勉義務は既に「会社法」に規定されており、今回の改正のポイントは、忠実義務と勤勉義務の区別をおおむね明確にしたことにある。
 忠実義務の本質は「自分の利益と会社の利益との相反を避ける」ことと「職権を利用して不正な利益を得てはならない」ことであり、勤勉義務とは「職務を遂行するには、会社の最大の利益のために、管理職としてあるべき合理的注意を払わなければならない」ことである。
 実務上の一部の事例において、忠実義務違反行為の認定と追責は比較的にしやすいが、勤勉義務を果たしたかどうかは異議が生じやすい。例えば、財務処理において相当数の偽発票をもってコストを計上したことで税務機関に処分された場合、高級管理職が勤勉責任を果たしていないと見なされるのだろうか?通常、もし高級管理職に重大な過失があれば、責任を追及される可能性がある。
 外資企業は、外国側株主が本社から董事、監事、高級管理職を派遣した場合、自国の法律と本社の規則制度によってその行為を規制することが多く、その行為が中国の「会社法」に適合するかどうかにはあまり関心を持っていない。しかし、現地化運営の推進に伴い、現地採用従業員が董事、監事、高級管理職を務めるケースが増えていくため、会社の定款、董事会規則などの関連制度において董事、監事、高級管理職の義務をより明確にして強化することが必要になった。

2. 董事、監事、高級管理職が会社の資金を他人に貸したり、他人のために会社の財産を担保に入れたりすること

 今回の改正では、「定款の規定に違反して、株主会、株主大会又は董事会の同意を得ずに、会社の資金を他人に貸したり、他人のために会社の財産を担保に入れたりする」という内容が董事、監事、高級管理職の禁止行為から削除された。この削除は、董事、監事、高級管理職が定款の規定に違反し、又は株主会、董事会の同意を得ずに貸付や担保権設定を実施できることを意味するのだろうか?少なくとも担保権設定の面では、そうではないと思われる。
 というのは、改正後の第15条は「会社が他社に投資し、又は他人のために担保を提供した場合、会社定款の規定に従い、董事会又は株主会によって決議されるものとする。会社の定款に投資又は担保の総額及び個別の投資又は担保の金額の限度額が規定された場合、限度額を超えてはならない。会社が会社の株主又は実際の支配者に担保を提供する場合は、株主会の決議を経なければならない」と規定しているからである。
 言い換えれば、董事、監事、高級管理職が株主会や董事会の同意を得ずに、勝手に会社の名義で対外保証を行う行為は、法律違反になる。「会社法」の関連規定によると、董事、監事、高級管理職の職責履行行為が法律の規定に違反し、会社に損失を与えた場合、賠償責任を負う必要がある。つまり、法律がこのような行為を否定している。

3. 同種の業務を自営することと会社のビジネスチャンスを獲得すること

 今回の改正の前後において、董事、監事、高級管理職が会社と同類の業務を自営し、又は他人のために経営すること、職務上の地位を利用して会社のビジネスチャンスを獲得することは、法律で禁止されている。
 今回の改正によって、関連内容がより目立つように見える個別の条項にされたほか、いくつかの合理的な内容も追加された。
 1)董事、監事、高級管理職が同種の経営活動に従事することを希望した場合、まず、プロセス上の報告義務を履行して会社に報告し、会社の定款に従って関連権限のある意思決定機関で審議され、承認されなければならない。当該報告義務の設定は、会社が報告の内容と書式を規定できるようになり、必要な内容が欠けた場合に報告不足と見なせることを意味する。このような行為をした董事、監事、高級管理職は、会社が知っていて反対しなかったという理由で免責することはできない。
 2)会社のビジネスチャンスの獲得については、法律法規又は定款の規定に従って、会社が当該ビジネスチャンスを利用できない場合は例外とされた。
 但し、この例外規定にはまだ不確定なところがある。ここでの法律法規とは、強制的効力を有する規定を指すのか、それとも他の性質の規定を指すのだろうか?例えば、会社登録の関連規定によれば、経営範囲を変更するには登録変更手続きが必要だが、当該ビジネスチャンスが既存の経営範囲を超えており、会社がまだ登録変更手続きをしていない場合、会社は当該ビジネスチャンスを利用できないと考えてもよいだろう。
 筆者の知る限りでは、少なくとも江蘇省と広東省の裁判所で異なる裁判基準が示された。江蘇省の裁判所は、登録経営範囲を会社がビジネスチャンスを利用できるかどうかの基準とすべきだとし、広東省の裁判所は、会社の実際の経営範囲を基準とすべきだと見なしている。

 また、会社法の改正が可決された同日、「刑法」改正案(十二)も可決された。当該改正案は次のように規定している。

 1)国有企業、非国有企業、政府系事業組織の董事、監事、高級管理職を含め、会社と同類の経営に不法に従事し、金額が莫大な場合、刑事責任を追及することができる。2010年の最高検察院と公安部による「公安機関が管轄する刑事事件の立件訴追基準に関する規定(二)」を参考にすると、経営額が10万元以上に達すると、立件して責任を追求することができる。
 2)国有企業、非国有企業、政府系事業組織の従業員を含め、職務上の地位を利用して、会社の利益ある業務を自分の家族・友人に経営させたり(ビジネスチャンスを家族・友人に与えたことを含む)、市場価格より明らかに高い価格で家族・友人が経営する会社から商品、サービスを購入したり、家族・友人が経営する会社のために明らかに低い価格で商品、サービスを提供したり、家族・友人が経営する会社から不適合の商品、サービスを購入して受け入れたりし、国家、企業、政府系事業組織に大きな損失を与えた場合、刑事責任を追及されることもある。同様に、前述の2010年の最高検察院と公安部による規定を参考にすると、損失が20万元を超え、又は家族・友人が20万元以上の利益を獲得し、若しくは関係企業が倒産若しくは6ヶ月以上操業停止となるなどを立件基準とすることができる。
 前述の通り、董事、監事が海外本社から派遣されている相当数の外資企業は通常、自国の法律に基づいて派遣された人間の行為を制限しており、定款などで関連規定を設けるのは一般的ではない。ただし、現地採用者が董事、監事を担当するケースも徐々に増えており、副総経理以上の高級管理職を担当するのもよく見られるため、「会社法」のこの改正を適時に理解し、それに応じて会社の定款などの関連規定を修正することが必要になっている。

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