百岁茶道大宗匠 千玄室
对谈 ✗
世界知名建筑家安藤忠雄
人間に蓄えられた教養というものが世界をうまく平和にできればいいのにと思います。
安藤忠雄
生活の中に文化が生きていること自体が非常に珍しいことなのです。
千玄室
千:私は今も京都大学の特任教授をやっており、社会人と一般学生の選抜の方々に茶道の講義をしていますが、一般学生は外国からの留学生が多いんです。
安藤:京都は千二百年の歴史をもつ都。千年都市は世界でも稀で、京都とローマのほか数えるほどしかありません。これほど歴史の重なる奥深い魅力をもった都市に留学する学生は恵まれていますね。
千:そうでしょう。
安藤:私は年に2、3度は銀閣寺に行きます。足利義満、義政の時代に花開いた能狂言やお茶の世界に思いを馳せながら、日本最古の書院造ともいわれる東求堂などを拝見した後「哲学の道」を歩いていると、なんと素晴しい所なのかと、つくづく思うのです。
千:やはりそうお思いになる?室町幕府三代将軍の足利義満が北山に鹿苑寺金閣をつくり、の孫にあたる義政がつくった慈照寺銀閣を中心に東山文化が開花した。武家の教養としての茶道や書道、華道、能など、非常に大きな教養の材料でした。そこに禅文化も融合してひとつの教養の場にしたということが歴史的にわかります。
安藤:京都で学ぶ学生たちはその教養の泉のような場所で生活をしているのですね。
千:明治以降に大学が設置されて以降、京都では遊学するといいます。東京の人には申し訳ないですが、京都はいろんな意味で学ぶ場所が多いし、遊びながら勉強ができます。さっき安藤先生がおっしゃったように、京都は逍遥の場なのです。
安藤:歩きながら、歴史も自然も文化も全身で吸収しながら勉強するのですね。
千:はい。金閣寺、あるいは銀閣寺。いろいろな場所に行って考えながら歩く思索の道であるという、それをみんな望んでいたわけです。哲学の小路を歩きますと昔の学生たちが、逍遥しながら思索したという跡がずいぶん残っています。
安藤:そのように、楽しく学びながら、美しく生きていくという価値観は次第に薄れてしまい、何でも手短に、手っ取り早く知ったつもりになり、効率性や経済的な豊かさばかりが求められる時代になってしまったように思います。結果世界中でお金や資源の取り合いが起こる。ロシアとウクライナの戦争なども、端緒は同じです。こんな時代ではありますが、人間に蓄えられた教養というものが世界をうまく平和にできればいいのにと思います。
千:1996年にサミュエル・ハンチントンというアメリカの政治学者が書いた「文明の衝突」(原題The Clash of Civilizations and the Remaking of World Order)という本があります。日本列島にはこれだけの素晴しい伝統文化が育っている。日本人はいかに知性や心の情けを培い、茶道や能楽などの文化を育成してきたのか、と。日本のような、生活の中に文化が生きていること自体が非常に珍しいことなのです。
安藤:とりわけ京都は、長い歴史の中で培われてきた様々な文化に触れられる素晴しい街です。京都に4年もいれば、その文化を自分で肉体化することもできるでしょう。日々の生活の中で奥深い文化に触れることで、心の中に大きな世界をもつことが大切だと理解できるようになります。そうして豊かに生きられるというのが、京都のいいところです。
千:おっしゃるとおりです。西洋にも遺跡とか、いろんな伝統的な風習、慣習、特にキリスト教を中心にしたいろんな催しも残っていますが、日本の場合は、それがすべて生活の中に入っていることが特徴です。単なる遺跡や観光というのではなく、日本人ひとりひとりが何かをもっている。その何かが、わたくしは世界でいちばん大事な日本人の素質じゃないかと思うのです。
安藤:ロシアとウクライナを例に挙げましたが、今世界中で戦争や紛争、国家間の対立が起こっています。世界の人口は増え続け、地球上の限られた資源・食料・エネルギーは枯渇への一途を辿っている。それに加えトルコの地震やハワイの山火事など自然災害が頻発するなど、今や人類規模の課題がかつてないほど山積しています。しかしこんな時代だからこそ、自然とともに美しく生活するという日本人の元来の考え方が、重要になってくるのではないかと思うのです。
千:先生が東京の神宮通公園の公共トイレをきれいにおつくりになったでしょう。実は私も見に行きましたよ。先生の建築を通じて美を追求する、日本人のそういう伝統の心を掘り出していただけて私はうれしいのです。
安藤:あれは東京オリンピックに向け、まずだれでもが使う公共のトイレを美しくしようという発案で、多様性を受け入れる社会の実現を目的として、様々なクリエイターが渋谷の各地に公衆トイレをつくるという企画が成り立ったものです。
千:世界中でこれほど有名な建築家がみんなのために公共トイレをおつくりになるなんて。私、ああいうことから、日本人のよさが世界に伝わるのではないかと思うのです。清潔と同時に、やはり日本人は美を追求していくというひとつの心性をもっています。
安藤:日常生活に美意識を注ぎ込むという意味では、とても日本的なプロジェクトと言えます。ただ美しくつくるだけでなく、美しくメンテナンスして手入れして、長く使い続けていただく。いつまでもその場所にあり続けるものをつくることが目的です。
千:コロナ禍の最中でもありましたね。私も神宮通に行って使用させていただきました。先生を 思い出して、ああ―、いいなぁ(笑)と。
安藤:コロナで世界中が落ち込む中で、オリンピックのために日本に訪れた海外の人たちが、日本ならではの生活文化に触れて刺激を受けてくれたら、という思いでつくりました。
「千ちゃん、お茶にして」
千:20年前の対談で私は安藤先生と約束しました。海の上でお茶を点てようと(笑)。
安藤:覚えてくださっていてうれしいです。ぜひ、点ててください。
千:私はまだ双発のプロペラなら操縦できますから、飛行機で空の上でお茶を。いいですよー(笑)。しかし、今や日本は台風や津波など多いですから、なかなかできそうにないですね。
安藤:温暖化の影響も大きいと思います。規模も大きく、複雑な環境問題を解決することは簡単にはできませんが、海の上で茶会をすることは、環境のことに意識を向けるひとつのきっかけにもなると思います。飛行機の話が出ましたが、大宗匠は大戦中、学徒出陣から海軍の航空隊に所属されたと伺っています。
千:そうですよ。あれだけの大戦で学生時代から海軍の予備学生になって、思いがけなく飛行機で2年間。戦いというものをいやというほど知りました。戦争は地獄です。みんな「平和」「平和」と言うけれども、私は「平和」という言葉を使うこと自体がいやなのです。「平和」という言葉を使わなくてよい世の中にしていかなければならない。そうでしょ?
安藤:そうですね。
千:いくら口で言っても「平和」にはなりません。人間がお互いに半歩下がるという気持ちをもてば衝突しませんし、戦争も起こりません。だから私はそれを伝えるためにお茶を持って世界中をまわるのです。
日本人の心の大きな世界
安藤:戦争が当時の人々に残した傷跡の深さは計り知れません。あの過ちを決して繰り返さないこと、それを国際社会に向け発信していくのも日本の大きな責任だと思います。敗戦といえば、戦後まもなく湯川秀樹博士がノーベル賞を受賞しました。その快挙は、戦争で傷ついた日本国民に一筋の希望の光と勇気を与えました。京都には湯川博士が晩年の24年間を過ごしたご自邸が残っていますが、今それを改修して湯川秀樹博士を記念する施設として再生する計画に関わっていて、この春に完成する予定です。湯川博士は京都が生んだ日本を代表する科学者です。日本人ならではの美しい発想の中で生まれた素粒子の理論。世界の中枢から遠く離れた島国でひとり頑張って、当時の最先端の先の先を行く中間子理論を打ち立てた。こんなすごい日本人がいたということをこの計画を通して改めて世界に発信したいのです。日本人が自信と元気を取り戻すきっかけの一つになればと。
千:私は先生の図書館の仕事も陰ながら応援していますよ。
安藤:ありがとうございます。今、世界中に、就学が困難な子どもたちが多勢います。日本の子どもたちの活字離れも深刻です。明日を担う彼らにこそ、読書を通して豊かな感性や教養を育んでもらたい。そんな気持ちで各地で子どものための図書館をつくり、寄贈する活動を続けています。まずは大阪の中之島と神戸、そして岩手県の遠野市につくり、現在は松山と熊本につくっています。また新たに北海道大学にも、図書館をつくる計画がスタートしました。クラーク博士の「Boys, be ambitious」が建学精神の礎となっている北海道大学は、子どもたちが自由に読書を楽しめる施設をつくる場所として相応しいと考えたのです。海外にも展開しています。その一つがバングラデシュ。国民の平均年収が10数万円程度で、世界で最も貧しい国の一つと言われますが、そのバングラデシュの首都ダッカに図書館をつくっています。ここで豊かな読書文化に触れた子どもたちが立ち上がって、世界で活躍してくれるといいなと思って、頑張っています。
千:素晴しいですね。そういうことが本当に世界人類の平和のための、大きな元になると思うのです。単なる建築だけではなくて、いろんなことを通じて手を差し伸べようという思いが、非常に大事だと思います。
安藤:これまで日本人は多くの街づくりを行い、観光資源をつくろうとしてきましたが、急につくったものは観光の対象にならないんです。お茶の世界のように奥深い文化に根差した「心」のある街づくりをしなければならないのに、「心」がない観光資源で世界中から人を呼ぶのは、ちょっと難しいと思いますね。
千:恐れ入ります。私もやはりお茶を通じて、とにかくお湯とお茶と茶筅があれば、自分の好きなお茶碗でお茶を点てて、自分の心を相手の方に「どうぞ」と、一碗のお茶をすすめます。そこにはなんの欲もなく、お人とお人のつながりで、差別区別もない。本当に差別区別のない世界を一碗のお茶でつくっていかなければいけないなと、それがわたくしの念願なのです。
安藤:茶道の精神は、日本の建築文化にも大きな影響を与えてきました。茶室の小さな空間の中にはとてつもなく大きな世界がありますよね。旧帝国ホテルを作った建築家のフランク・ロイド・ライトも、岡倉天心の「The Book of Tea」を読んで感動し、これこそ建築の原点だと言っています。
千:空間ですからね。四畳半でも一畳台目でも、あの空間の中から無限大が出てくる。岡倉天心は「The Book of Tea」の中にも書いていますが、美の追求と空間。そしてそれに対する「不完全な美」という言葉…。
安藤:あの時代(明治初期)に岡倉天心が英語で初めて茶の本を書いた。またそれを読んで感動した外国の人たちがいるというのがすごいですよね。
千:そうでしょ。さらにドイッ語に翻訳されて「The Book of Tea」はヨーロッパ中に広まったわけですからね。
安藤:そう考えると、今の日本の学生もアンテナを張り巡らせて、もっと文化的なものに対して貪欲になって、死にものぐるいで勉強してもらわないといけません。
千:本当に、そのとおり。そういうものを教本にしてくれれば、建築も庭園もお茶というもののすべてが含まれていますから、一冊の本を通じて、総合的な文化をとらえることができると思うのですね。
安藤:世界で日本が再び存在感を取り戻せるかどうかは、若者の力にかかっています。学生たちはいつも地球儀を見て、地球の中でどう生きるかということを考えてほしい。
千:そうです。そういうことを知ってもらわなければ、やはり日本の国の将来は、いろんな意味で危ないなと思うのです。
安藤:資源もエネルギーも食料もない国ですから。‘モノ’ではなく、日本人が培ってきた心の世界で闘いに挑まない限り、世界には通用しないと思いますね。
千:もっともそういう意味において、わたくしがやはり残していきたいという気持ちがいろいろとあるのです。
安藤:それでよく世界中にお話しに行かれているのですね?
千:世界中で蒔いてきた種ですので、種が育ってきて、今やっと実ってきてるのです。お茶の種を蒔いてそれが実ってきているということは、向こうの人がとにかくお茶を点てて、すすめ合って飲んでいる。そこへもってきて、お茶に含まれるカテキンがコロナの予防にもなっているって(笑)。
安藤:なるほど。実利的にも優れている(笑)。
千:スイスの医学会で、抹茶にはカテキンがあり、身体の毒素をみな流す、だからコロナの予防になると、医学的に証明されて発表されたのです。それからスイスの方々はお茶をいただいているようです。安藤先生も世界中のいろんなところで建築をつくられていますね。
安藤:この間、パリで現代美術館「ブルス・ドゥ・コメルス」をつくりました。18世紀後半につくられた歴史的建築物を保存・改修し、美術館として再生するプロジェクトですが、古き良きものをどういう形で未来に残しいくかということを真剣に考えました。古い建物は、その地で生活する人々の「心の風景」となっています。真に価値のある建築は、長きにわたり人々の心の中に残っていくものです。我々は今の文化を次の時代につないでいかなければならない。
千:異文化といいますが、結局人間なのです。言葉や慣習や国が違っても、地球上に住んでいる人間はみな一緒だと思うのです。だから、私はいちばん大事なことは「自然共生」ということ。自然とともに在らなければいけない。よく例えて言うのです。「この丸い茶碗、これは地球です。その中に緑がいっぱいある。抹茶はグリーンティー・パワー。これはネイチャーなのだ。もし地球から緑がなくなったらどうしますか?」と。皆さんに話しながら、お茶をいただき、自然と一緒になってほしいということを説明するのです。
安藤:私はこの「青いりんご」をよくモチーフにします。
千:ああ―。これは素晴しい。
安藤:いつまでも熟すことなく、青いりんごの精神で、人生120歳まで青春を生きよう、と。子供の図書館でも3mほどのりんごを置いています。次代を担う子供たちには、長い人生常に目標をもって走り続けて欲しい、という願いを込めています。
千:ずっと触れていたい。大事なことですね。人間は生きている以上は美というものを追求していかなければならない、美というものへの意識を持たなければ人間の居場所はなくなると思います。
安藤:大宗匠にはまだまだこれらも、世界の美のためにがんばっていただかないと(笑)。
千:私は自分の年を忘れています。戦争で一度死んできましたから、戦後78年の今、私は78歳。それを言うと孫や皆が「そうしたら僕らいませんよ。おじいちゃんが生きてられたから僕らはいます」と(笑)。それでも私はそういう覚悟で生きたと…。本当にありがたいことです。今日は久しぶりに素晴しいお話ができました。ありがとうございました。
安藤:こちらこそ、ありがとうございました。
千玄室
1923年京都府生まれ。同志社大学法学部卒業ハワイ大学修学。韓国中央大学校大学院博士課程修了。文学博士、哲学博士。1964年千利休居士巧代家元を継承。今日庵主として宗室を襲名。2002年長男に家元を譲座して千玄室に改名。主な役職に外務省参与、ユネスコ親善大使、日本国連親善大使、公益財団法人日本国際連合協会会長。文化功労者国家顕彰、文化勲章、內閣総理大臣顕彰レジオンドヌール勲章コマンドゥール(仏一大功労十字章(独)等を受けており、また国内外で名誉市民、名誉博士号を多数受けている。今なお世界中をまわって活動している。
安藤忠雄
建築家。1941年大阪生まれ。独学で建築を学び、69年に安藤忠雄建築研究所を設立。79年に「住吉の長屋」で日本建築学会賞受賞。日本芸術院賞、ブリツカー賞、国際建築家連合(UIA)ゴールドメダル文化勲章など受賞多数。97年から東京大学教授、現在は名誉教授。代表作に「光の教会」「司馬遼太郎記念館」「淡路夢舞台」「地中美術館」「ブルスドゥコメルス」がある。大阪の中之島にある「こども本の森中之島」のテラスには、永遠の青春をテーマとする安藤忠雄さんがデザインした青りんごのオブジェがある。現在、日本で初めてノーベル賞を受賞した理論物理学者·湯川秀樹が晩年の24年間を過ごした旧宅の保存改修計画に関わっており、この春完成の予定。