日语美文朗读:「はじめ」と「まんなか」と「おわり」・松浦弥太郎

文摘   教育   2024-11-23 22:04   湖南  

中村Radio・第202回

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朗読者:中村紀子

作品:『おいしいおにぎりが作れるならば。』松浦弥太郎 

BGM:Little Summer breeze - 大川茂伸


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「はじめ」と「まんなか」と「おわり
松浦弥太郎

 人間関係におけるコミュニケーションで悩む人が多いという。伝えたいことや、伝えなくてはならないことを、相手に正しく理解してもらうのは本当にむつかしいことです。意識や情報を共有するために、正しく「伝える」ことができないと誤解が生じてトラブルが起き、関係がぎくしゃくもします。
 暮らしや仕事とは、必ず人と人が関わるものだから、常に円滑なコミュニケーションが必要とされます。私たちは方法や技術以前に、人に対する思いやりと、必要なことを正しく「伝える」ということを、しっかり習得しておきたいものです。
 およそどんなものにもコツがあります。
 コツとは何かといえば、それはいわば何かする場合の心のお守りのようなものです。すなわち勇気を伴った知識や概念であろうと考えます。暮らしと仕事において、必要なことを正しく「伝える」ために、自分らしいコツを見つけられるとしあわせです。それは常にポケットの中に小さなビスケットが入っているようで安心。
 みなさんの知っている上手な「伝える」コツとはなんでしょう?日々のお守りにしているコツはなんでしょう?
 僕にとっての「伝える」ためのコツは、すべてにおいて「はじめ」と「まんなか」と「おわり」をしっかり意識すること。とにかく何をするにしても、「はじめ」と「まんなか」と「おわり」が何かと常に考え、それをはっきりと区別して、自分の頭の中をわかりやすく整理します。


 たとえば、文章を書くこともそうです。文章には必ずテーマがありますが、それを表現する、もしくは伝えるために必要な「はじめ」は何か?そして「まんなか」は何か?「おわり」は何か?それらを具体的に理解し整理しておかないと文章を書き始めることはできません。何もなければ、あてもなく真っ暗闇の海原に飛び込むようなことになります。
 これからの話は、僕の自己流の「伝える」コツですから、あくまでも参考として読んでください。
 まず、伝えたいことがあったら、そのひとつを「はじめ」と「まんなか」と「おわり」の三つに分けてみます。この三つの中身はそれぞれで異なるので、その都度よく考えます。答えはひとつではなく、その人のセンスと個性がものを言うので自由です。なにより自分が納得できるように頭の中を整理するのが大切です。
 三つが決まったら、それを三枚の紙に鉛筆で書いてみる。書くという行為は、面倒くさいことですが、書くことでさらに頭の中が整理されますので大切です。実体としての感覚は大きいのです。そこでそれらを俯瞰してみて、面白そうか楽しそうかと考える。わあ、面白そうで楽しそう、と感じたら、その「はじめ」と「まんなか」と「おわり」でよしとします。そう思わなかったら、あらためて考えます。
 その次に紙芝居を作ります。紙芝居とは、子どもの頃によく楽しんだ、紙で作った物語です。紙芝居といっても、画用紙で作るものではなく、メモ紙を使って作ります。

紙芝居(图源网络)

 まずは、「はじめ」についての物語を考えます。「はじめ」の内容を分解して、何枚かの紙を使って言葉の紙芝居を作るのです。ここでもまた「はじめ」「まんなか」「おわり」を意識します。それができたら、「まんなか」の物語を同じように作ります。だいたいの場合「まんなか」の紙芝居の枚数は多くなります。ここがメインだからです。次に「おわり」の紙芝居も作ります。
 すると、ひとつのテーマが、「はじめ」「まんなか」「おわり」の三部作になり、さらにそのひとつひとつの中にも、さらに細かい「はじめ」と「まんなか」と「おわり」の物語ができていることに気がつきます。しかも、とびきり面白そうで楽しそうな。
 そうして、ひとつの伝えたいことをもとに整理した考えで生まれた紙芝居の全体を、もう一度俯瞰します。ここからが重要です。その紙芝居が「むかしむかしあるところに......」というように、昔話のはじまりのようなわくわくした感じではじまっているかどうか?そして、「まんなか」が時間を忘れて夢中になれるような中身になっているかどうか?「おわり」は「......だったとさ」というような、じーんと心に染め入るクライマックスになっているかどうかを確かめます。要するに、その紙芝居で人は感動するか?自分自身でも拍手ができるか?ということです。拍手が出来たら上出来です。あとはその紙芝居をお守りにして、相手に「伝える」だけです。
 ひとつ気をつけたいのは、そこまで作った紙芝居は、いわばどこかに行くための手描きの地図のようなものであり、設計図のようなものです。道順はひとつでないので、実行に移してみて、こっちの予定だったけれども、ここは歩きにくそうと思ったら、別の道を行く判断も必要です。設計通りに作り始めて、うまく組み立てられなかったら別の方法で作らないといけません。常に頭はやわらかく、考えや方法を新しく変える勇気は必要です。ですから、紙芝居は台本ではなく、あくまでもお守りと考えます。しかし、この紙芝居というものは迷ったときに大いに役立ちます。これをもとにして、いくらでも「伝える」バリエーションが考えられます。
 たとえば、「はじめ」と「まんなか」と「おわり」それぞれがしっかりと作られていれば、状況に応じて順序を変えることも可能です。
 ここまでのことは、会社などでよく行われるプレゼンテーションの訓練と同じかもしれません。プレゼンテーションのポイントは、受け取る側を短時間で、いかに感動させて、面白がらせるかだと言います。そのためには、やはり紙芝居の準備が必要です。

中村老师in长沙线下日语沙龙小组讨论

 仕事であろうと暮らしであろうと、僕は常にこの「はじめ」と「まんなか」と「おわり」の意識を忘れません。人の話を聞くときに、相手は何を「はじめ」で話し、「まんなか」が何か、そして「おわり」が何かと考えます。そうすると、たとえ相手の伝え方が不十分であっても、積極的に理解へ近づくことはできるし、不明な点がわかるので簡潔な質問もできる。伝える側だけでなく伝えられる側にとっても、これらは理解を助けるコツになるのです。
 文章を読むときや、音楽を聴くときも同じように、「はじめ」と「まんなか」と「おわり」が何かと常に考えます。そうすると、より理解が深まって内容を楽しむことができます。伝えられる側にとって、それがとても楽しくて面白いときの共通点は、「はじめ」と「まんなか」と「おわり」が、感心するくらいに非常にわかりやすくはっきりしていることです。
 こんな風に、仕事と暮らしにおいて「はじめ」と「まんなか」と「おわり」の意識は、常に頭の中の整理に役立ち、正しいコミュニケーションを学ぶことができます。
 「伝える」コツは、「伝えられる」コツにもなります。上手に「伝える」ことと同じように、上手に「伝えられる」ということも必要です。相手の伝え方が下手だからと、愚痴を言ってはいけません。それならば、相手の伝えたいことをうまく引きだし、その内容を整理しながら意見のやりとりをし、正しく理解する努力が必要です。
 コミュニケーションとは、「伝える」と「伝えられる」のやりとりを、常に相手と自分の間で行ったり来たりをさせて、大切な内容をひとつひとつ整理しながら、相互が相手の伝えたいことを正しく理解しあうことを忘れてはいけません。そして、あくまでも楽しく面白くすることです。




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