日语美文朗读:猫の神さま(1)-吾輩も猫である

文摘   文化   2024-10-12 21:47   湖南  

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猫の神さま(1)

 あたしは、猫として生まれた。


 熱くて暗い、狭いところを通ってぐいぐい押し出されたかと思ったら、全身を覆っていた半透明の膜がぎしっぎしっと噛み破られて、鼻の穴に溜まった水をざらざらの舌で舐め取られたとたん、乾いた空気の束がどっと肺の奥まで流れこんできた。苦しくて死ぬかと思った。産声はつまり、悲鳴だった。


 同じようにしてひとあし先に生まれ落ちた姉たちと、あたしはまず、お母さんのおっぱいを奪い合った。まだ目なんか開かない。誰かの前肢があたしを押しのけようとするから、あたしも別の誰かの頭を踏んづけながら乳首にむしゃぶりついた。この世で生き延びていくための最初の戦いだ。引き下がるわけにはいかない。
 狭い産道を通って出てくるから、生まれてすぐのあたしたちは鼻の先が細長く尖っている。当たり前のことなのに、籠の中を覗きこみに来る誰もが、「何これ、ハムスター?
 なんて笑うから、しばらくの間あたしは自分のことをそんなふうに呼ばれる生きものだと思っていた。


 今ふり返ると、ネズミの仲間なんかに生まれなくてほんとによかった。頭からがりがり食べられる側にはまわりたくない。
 おまけにネズミって、たいして美味しくないのだ。ちょろちょろ逃げまわるのを捕まえて、爪に引っかけて空中に放り投げたりして存分にいたぶるのは愉しいけれど、肉は薄くて硬いし、牙を立てたときに舌の上に広がる皿がまるでずっと押し入れで湿ったままの布団みたいなかび臭い匂いがして、あたしは好きになれない。味という点で言わせてもらえば、鳥のほうがだんぜん美味しい。スズメもメジロも、ドバトもキジも、おおよそ鳥ならば何だっておいしい。暴れると羽毛が飛び散って鼻に貼りつくのは鬱陶しいけど、噛みしめた時、奥歯にしみわたる血はほのかに甘いし、細っこい骨が口の中でぱしぱし折れてゆく食感がもう、たまんない。
 ーー話がそれた。
 後になってお母さんから聞かされた話では、あたしたちが一緒に暮らしてあげているあの人間、ヒトのメスは、産気づいたお母さんが苦しい思いをしている間ずっと前肢を握ったりおなかをさすったりして、お産婆さんを務めていたらしい。
 言われてみれば、うっすら覚えている。子宮の中で、ほんとはこのままじっとしていたいのに、大きな律動とともに押し出されつつあった時のこと。痙攣と収縮をくり返すおなか越しに、何かあったかくて柔らかいものがそっと撫でてくれるのを感じていた。くふ、くふ、と咳き込んでいた母さんも、そうされると身体の力を抜いて横たわるから、中のあたしたちも楽になった。
 あれは、あの人間のてのひらだったのか。そう思ったら、あたしも母さんにならって、少しずつ心を許す気になっていった。
 彼女は、詩を書く人だった。ふだんは音楽に合わせて歌詞を書くことでお金をもらっているらしい。
 はっきり言って、おそろしく外づらのいい自堕落なメスだった。部屋なんか、お客が来るときだけは片付けるけど、いつもは目を覆うほど汚い。ただどういうわけか、あたしたち猫に対する気遣いだけはなかなか行き届いているのが不思議だった。いわゆる、あれだ。ヒトのオスとは暮らせないけど、猫とは暮らせるタイプの女。あの典型だと思う。
 いかんせん、本人には絶望的に自覚がないらしく、年がら年じゅう恋に落ちては発情してばかりいる。母さんがこの家に住みついた時から数えても、いまのオスで三人目だそうだ。あたしたち猫は春と秋だけ慎ましやかに恋の季節を愉しむのに、ヒトのメスの節操のなさといったら、ハツカネズミにも劣る。おまけに彼女ときたら、発情するだけならまだしも簡単にほだされてしまって、どのオスにもひたすら貢いでは馬鹿みたいに尽くそうとするのだった。どうせ長続きなんかするはずもないのに。
「いったい何を根拠に、今度こそはうまくいくなんて信じられるのかしらねえ」
 ようやくおっぱい以外のものを食べ始めたあたしたちを前に並べて、母さんはため息まじりに言った。
「人間にとっての<うまくいく>は、お互いの自由を二度と許さないってことと同じ意味らしいの。相手を縛ろうだなんて考えるから、窮屈すぎて駄目になっちゃうのよ。オスだってメスだって、好きなときに好きなことしたいのはお互いさま。私は、自由を明け渡すなんてまっぴらだわ。
 この界隈きっての美猫と謳われ、何匹ものオス猫たちと浮き名を流してきた母さんが口にする言葉には、なんだか重たい説得力があった。
 一腹で、生まれたあたしたち四姉妹の、毛皮の模様を見ただけでも、父親がみんな別々だってことはわかる。嘘じゃない。猫のメスにとっての排卵っていうのは毎月決まっているわけじゃなくて、気に入ったオスと寝ると、それが刺激になって複数の卵子が下りてくる。つまり、一夜のうちに何匹ものオスと立て続けに恋を愉しんだとしたら、その全員が同時に父親になれる可能性があるというわけだ。


 なんてよくできた仕組み、なんて優れた種族なんだろう。妊娠・繁殖の機会を逃さないようにしながら、同時に、多種多様な遺伝子を残していける。人間みたいに不自然なやり方で相手を縛っていたら、いまに滅びてしまうだろうに。
 もちろん、そうなっても、あたしたちはちっとも困らない。明日、人間が世界から忽然と消えたって、この爪さえあれば獲物は捕まえられる。
 まあ、あえて言うなら、上等なマグロの缶詰にはちょっとだけ未練があるけど。あごの下や耳の後ろやうなじのあたりをちょうどいい按配でくすぐってくれる指にも、けっこうな未練はあるんだけど。
 ーーまた話がそれた。
 あたしたちの額はほんとに狭くて、神さまはあれもこれも収めることまではできなかったらしい。そのせいか、過去のことはよく覚えているのだけど、先々を考えるのは得意じゃなくて、だからつい、話していても方向を見失う。その点はどうか許してほしい。
 ちなみに、猫にとっての神さまは、人間の言うようなものとは違う。全知全能の力を持った特別な猫、みたいな存在がいるわけじゃないし、神話のようなものもない。お供えをすればお願いごとを叶えてくれるわけでもない。もっとこう、漠然とした存在で、だけどおよそ猫に生まれた者なら誰しもその気配を感じられる何ものか――としか言えない。とにかく、だからあたしは、あたしが祈りたい時にだけ、あたしが祈りたいものに向かって祈る。
 ……何の話だったかしら。
 まあいいわ。
 あたしたちの生まれた家は、郊外の丘の上に建つ一軒家だった。小さな庭と菜園があり、敷地はカイヅカイブキの垣根にぐるりと囲まれていて、二階の窓からは眼下に一面の田んぼが青々と広がっているのが見渡せた。裏手はこんもりとした里山で、雑木と竹に覆われ、朝にはたくさんの小鳥たちが鳴き交わし、夜にはタヌキが吠えたり、フクロウが鳴いたりした。
 その家で、あたしたちは右も左もわからない子どものまま春を過ごし、夏には母さんから狩りの仕方や猫として生きるための作法を教わり、いつのまにかしなやかな肢体を手に入れて秋風を知った。
 やがて、冷たい木枯らしの季節を迎えた頃だろうか。
 あたしたちは母さんを失った。
 あんなに愛情深かった母さんが、ある朝いきなりあたしたちに向かって鋭い息を吐きつけて怒ってみせたかと思ったら、外へ飛びだしていって何日も帰らなかった。たまに帰ってきたとしてもあたしたちが近づこうとする牙を剥いて、ヒトのメスがいくら引き止めても家には長居しなくなり、そのうち本当に出ていってしまった。
 仕方のないことなのよ、と、近所のお婆さん猫が教えてくれた。
「わたしらにも覚えがあるけど、どうしようもないの。必要なことだからそうするだけだし、望んでなくても身体が勝手に動いてしまうの。決して、あんたたちを嫌いになったわけじゃないのよ」
 そう言われて、なんでだか涙が出そうだったけど、どうしようもないというのなら、どうしようもない。母さんだってきっと辛かったんだろうと思うことにして、あたしはこの先ずっと、優しかった頃の母さんだけを思いだすと決めた。
 そのあとしばらくして、いちばん頭のぼんやりした茶トラの長女が、裏の山を越えた向こうの農家で可愛がられるようになり、帰ってこなくなった。
 そうかと思えば、次女の真っ白いのがどこかの犬に追いかけられて逃げていった先で行方不明になった。
 三女の黒いのはといえば、田んぼの畦道で軽トラックに轢かれて死んでしまった。あたしはそのとき一緒にいなかったけど、たまたま見ていたオスの黒猫が教えてくれたのだ。
「たぶんあいつは俺の種だったと思うんだよなあ」
 そうかもしれないし、そうじゃなかったかもしれない。黒い猫というだけなら他にだっている。
 いずれにしても、運命には抗えやしない。末っ子で三毛のあたしはそうして、ヒトのメスと、その恋人との三にんで暮らすようになった。
 ある日、ヒトのメスは、あたしをそっと撫でては頬を寄せてきて言った。
「さくら。ねえ、さくちゃん。お前だけは、ずっとうちの子でいてね」


 ーーあたしを<お前>呼ばわりしていいなんて誰が言った。
 ーーっていうか、<さくら>とか<さくちゃん>って何それ。ダサすぎる。
抗議の唸り声をもらしてみても、彼女には通じない。
「さくちゃん、可愛いね。ほんとにお前は、なんて美人さんなんだろうね。お願いだから、私を独りにしないでね。ずうっと私の猫でいてよね。
 ーー違う。あたしが、<あんたの猫>なんじゃない。あんたが、<あたしのヒト>なんだ!
 大声で鳴いて頭突きをしてみせると、彼女はとても嬉しそうに顔をほころばせ、あたしを抱き寄せて、おでこのあたりを指で撫でた。


 悔しいけど、文句なしに気持ちよかった。喉が勝手にゴロゴロと鳴り始めてしまう。うっとりして目を半分つぶり、彼女のセーターを前肢で踏んでいたら、母さんのおっぱいを吸っていた頃の気分になった。
 ーーそうよ。あんたが、<あたしのヒト>なんだ。
 じんわりと沁みてくるその想いはあたしに、まるで最高の白身魚を食べ終えた後で陽だまりに出て、誰にも邪魔されることなく毛づくろいしている時のような満足感をもたらした。
 ふいに、体の奥から甘ったるくて凶暴な感情が衝きあげてきた。我慢できなかった。あたしは額を撫でる彼女の指を、両の前肢で抱えこみ、がじがじと齧りつきながら後肢をそろえて蹴ってやった。もちろん、それなりの手加減は加えてあげたけど。
「痛い痛い、わかったってば」
 <あたしのヒト>はそれでも怒らず、ぎゅうっとあたしを抱きしめて言った。
「大好き、お前のこと。愛いしてるよ、さくちゃん」
 あたしの喉がたてる音は最高潮に達した。
 わけのわからない幸福感に、息が詰まって死んでしまいそうだった。

…つづく…

特別出演
中村先生の愛猫「白井カッパ」

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猫の神さま(2)-吾輩も猫である
猫の神さま(3)最終回-吾輩も猫である


「ねね、ちょっと、私だって猫なんですけどぉ~。名前はまだ無いんですけどぉ~夏目漱石没後100年&生誕150年記念出版!明治も現代も、猫の目から見た人の世はいつだって不可思議なもので……。猫好きの作家8名が漱石の「猫」に挑む!気まぐれな猫、聡明な猫、自由を何より愛する猫、そして、秘密を抱えた猫ーー。読めば愛らしい魅力があふれ出す、究極の猫アンソロジー!



中村Radio——喜马拉雅FM

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