今日本語を専攻しているけど、将来どんな仕事に就けるのか不安だなぁ。もうすぐ卒業だけど、どの業界を選べばいいんだろう。自分が行きたい業界はあるけど、まだよく知らないんだよね。日本語を学びたいけれど、その先にどんな仕事があるのかよくわからないよ。
そんなあなたに、様々な業界で活躍する先輩方へのインタビュー記事をお届けします。日本語を学んだきっかけから、日本語学習のコツ、そして仕事のやりがいまで、先輩方の経験の中に、何かヒントが見つかるかもしれません。
毎週金曜日に中国語、土曜日に日本語で配信中。
東京大学の学部と大学院を卒業した徐佳凝は、2018年に隈研吾建築都市設計事務所に入社、国内外の数多くのプロジェクトを担当し、現在は隈研吾建築都市設計事務所の設計室長を務めている。
Q
Q
日本語の勉強を始めたきっかけは何でしょうか。おすすめの日本語勉強法があったら教えてください。
A
日本語を学んだのは偶然で、高校で英語以外の第二外国語を学ぶ機会があり、当時中国では日本の漫画やアニメが大人気だったので、日本語を学ぶのも楽しいだろうと感じ、深く考えずに日本語を選びました。
言語学習は近道がなくて、多くの時間とエネルギーをかけて真似しながら学んでいくものだと思います。私の場合は、相手のイントネーションや、話すスピード、気持ちなどを真似してきました。このようにして外国語を内面化させていきました。
Q
なぜ日本を留学先に選びましたか。
A
私の目標は建築デザインを研究することです。いろいろ調べたところ、日本の建築は世界的に高い評価を受けています。その大きな要因のひとつは、先進的な技術力だと考えています。建築界のノーベル賞と呼ばれるプリツカー賞の受賞者も、日本人が最も多いです。また、日本では、建築家が生活し、成長するのに良い環境を提供してくれています。だから、迷わず日本で建築を学ぶことを選びました。
Q
東大に入るためにどんな準備をしましたか?
A
東大に入るためには、数学や物理、化学などの基礎科目に加えて、小論文テストと面接があります。そのため、基礎科目の準備のほかに、小論文の書き方も学びました。小論文の書き方については、過去問をたくさん読んだり、先輩に相談したりしました。その中で学んだ大切なことは、批判的思考です。言い換えれば、アイデアそのものが正しいかどうかを評価するのではなく、思考のプロセスが綿密かどうか、思考の質が高いかどうかを気にするようになりました。例えば、 "テクニックと理論はどちらが重要か?"という質問に出会ったとき、とても印象に残り、いろいろなことを考えさせられました。どちらが重要かということだけではなく、より重要なのは自分の考えをいかに論理的に表現するかということです。このような批判的思考は、中国で勉強していたときにはあまり触れたことがなかったものです。論理的思考を鍛えるために、辞書のような分厚い本を買いました。そこには、日本のニュースに対して、各側の見解に関する文章がたくさん載っていました。これらの文章を読むとき、その視点が何であるかはあまり気にせず、どのように書いているか、どのように論理的に考えているか、どのように自分の意見を明確に表現しているかを学ぶようにしていました。このような練習を通じて、私の論理的思考力は大きく向上しました。
Q
あなたと話していて感じるのは、芯がしっかりしていて、自分の意見を持っている人だということです。では、人に流されず、自分の意見を持つにはどうしたらいいのでしょうか?
A
おそらく私の職業に関係があるかもしれません。建築設計には標準的な答えはありません。自分で可能性や案についてたくさん考える必要があります。この過程で独立した思考力が鍛えられました。仕事において、師である隈研吾が、ある考えを言っても、私は盲目的に従うのではなく、自分自身で分析するようにしています。他人の意見に耳を傾けはするが、あくまでも考えの一部として参考にするだけです。最も重要なことは、自分自身の独立した思考と判断を持つことです。
Q
高校の時、留学生として1年間日本に滞在されましたが、そのとき、どのようなお気持ちでしたか?印象的だったことは何ですか?
A
中国と日本は、多くの相違点と同時に類似点があります。私の留学先は北海道の札幌でしたが、気候的には私の故郷である瀋陽とよく似ており、体感的にはそれほど違いはないと思います。社会文化の面では、教科書で習った日本とは違うところがたくさんあります。札幌は外国人に対して寛容な街だと感じ、すぐにその環境に溶け込むことができました。また、日本人はプライバシーの保護がしっかりしていて、私が行ったときは1人部屋で自分のスペースがあったのに対し、中国では8人部屋の寮で基本的にプライバシーはほとんどありませんでした。どっちがいいかとは言えなくて、それぞれ長所も短所もあると思います。言語的な面では、教科書で学んだ日本語と実際日本人が話す日本語は結構違いました。例えば、声のトーン、話すスピード、アクセントなどです。教科書の日本語はとても標準的ですが、実際の日本人はそのように話しません。
印象に残っているのは、私が日本を離れようとしていたとき、学校で文化祭があり、私たちのクラスがロボットダンスを披露したことです。私たちのクラスは放課後に集まって、ダンスの動き、メイク、衣装、照明、小道具、音楽などを一緒に考えていました。このように、目標に向かってみんなで協力し合い、本気でショーの準備をするというのは、今まで経験したことのないことでした。みんなはとてもパワフルで、いろいろなことができると感じました。また、小さなことでも、少しもいい加減にしたり、言い訳をしたりすることなく、プロ意識が高いとも感じました。
Q
東京大学建築学科に入学して、建築という職業は以前思い描いていたものと同じでしたか?
A
基本的には同じですが、想像以上に大変な仕事だと感じました。昔は、この職業はもっと芸術的で、いいアイデアさえあればいいと思っていたが、本当にこの職業を学んでみると、この職業はルールや技術などの面で制約が多いことがわかりました。人間が建物を立てるのは本当に簡単なことではないこともわかりました。しかし、この難しさや複雑さこそが、この学問の魅力を深め、この職業をさらに興味深いものにしているのです。
Q
建築についてどのような考えを持ちでしょうか。
A
私たちの事務所の主な方針は、環境や周辺の建物との融合を重視することです。この面では、うちの事務所は特別です。まず、その土地自体がどういう属性を持っているかを見て、その土地と一体化できるような提案をします。例えば、もともと森だった土地であれば、そこに見栄えがよく、個性的な建物を建てるということよりも、人が無意識のうちにその土地に入り込み、心地よさや安心感、くつろぎを感じられるような建物を建てることを重視します。私たちが追求しているのは、建物の幾何学的なフォルムではなく、五感で感じる空間感覚です。
担当するプロジェクトのイメージ図
Q
建築業界で一番大変なことは何だと思いますか?
A
建築業界というのは、一つの専門でやるものではなく、多くの種類の専門家の人の参加が必要です。これは何千年も前から現在まで変わらないことです。例えば、小さなラーメン屋をデザインする場合、店主の運営理念をどのように設計に入れるか、お客さんがより美味しく食べられるか、排煙や配管をどう合理的にするか、同時に視覚的な効果もどうするかなど考えなければならないです。これは一人でできることではなく、常に多くの人とのコミュニケーションが必要です。これはまだ小さなお店の話であって、劇場や空港のような大きな建物になると、何百人、何千人が協力して完成させる必要があり、非常に複雑な作業です。しかし現在では、社会の発展と進歩のおかげで、人々はより効率的に、より規則正しく、より質の高いものを建てられます。
Q
人工知能は建築業界にどのような影響を与えましたか。
A
これは私がたまたま隈研吾に尋ねた質問です。人工知能はある程度、低レベルの仕事を人間の代わりに行うことができると答えてくれました。例えば、特別な設計が必要とされない、同じタイプの建物をデザインする場合、ディープラーニングによる人工知能は、非常に速く、非常に効率的に、このようなことを完璧に行うことができます。しかし、オーダーメイドが必要な場合、あるいはその土地に強い文化的目的や個人的感情がある場合、人工知能がそれに取って代わることは非常に難しいです。現在の人工知能は、基本的に既存のデータベース(人々の一般的な知識、私たちがすでに知っていること)をインプットとして、新しいものを生成しているものです。これは、普遍的な認知のループから飛び出していません。うちの会社が、人工知能を使っていくつかのデザイン案を生成してみましたが、できたものはあまり驚くようなものではなく、つまらないものでした。だから、少なくとも今のところは、人工知能はまとめたり、反復作業を効率的にこなしたりすることが得意なだけで、創造的なことや新しいことをするのにまだまだだと考えています。
Q
これまでに手がけたプロジェクトの中で、印象に残っているものは?
A
私たちが取り組んでいるプロジェクトのひとつに、深センにある漁港の改修工事があります。これも当時はコンペのプロジェクトです。2019年にコンペが始まり、コンペの結果は1年近く待たされ、現在も進行中です。印象に残っているのは、私たちが普段接している文化的なプロジェクト(美術館、博物館、劇場など)とは全く異なり、非常に地に足の着いた漁港プロジェクトである点です。なぜなら、それ自体が工場の性質の一部を持ち、実用性を非常に重視しているからです。必ずしもおしゃれな感じや非常に美しい感じを追求するのではなく、老朽化した漁港をいかに整然とした、清潔で親しみやすい漁港に変えるかが求められています。深センの漁港は、実は東南アジアの漁港とよく似ていて、魚が上がった後に漁師が外で直接取引をしており、衛生上よくないし、魚を買う側にとっても売る側にとってもあまり良い経験ではありません。現地の人たちも漁港については否定的な意見が多かったです。現在、この地域は開発された地区ですが、漁港だけは魚臭く、人々は漁港を避けて近寄らないそうです。しかし、私が訪れた小田原漁港のように、日本には整然として清潔な漁港がたくさんあります。人々は漁港を臭いが強くて行きたくない場所だとは思っておらず、むしろ大人が子供を連れてきて、魚が売られているのを見たり、海鮮丼を食べたりします。漁港は人々にとても身近な場所だと思っています。日本では、漁港はとても貴重な場所であり、いい体験ができる場所です。中国では漁港に対して否定的な意見が多いと感じました。私たちはそれをとても興味深く感じ、漁港を周囲の人々に愛される場所にしたいと思い、このプロジェクトに挑みました。
Q
隈研吾さんと仕事をする中で、彼から学んだ重要なことは何ですか?
A
私が彼から学んだとても大切なことは謙虚さです。どんなに有名になっても、彼は常に自分をサービス提供者の立場に置いています。古代から現代に至るまで、建物の建築は建築家とはあまり関係がなく、誰が資金を出し、誰が工事を始め、誰がものを建てるのかがすべてであり、その人たちが建物全体の主人公であり、建築家よりも偉いのだと彼は言い続けました。現在の社会環境において、こうした人々が効率よく働け、能力を引き出せるよう助けることが私たちの仕事だということです。
Q
自分の人生で好きなことを見つけるにはどうしたらいいと思いますか?
A
たくさん調べて、体験してはじめて、自分の好きなことを見つけられると思います。やってみなければわからないからです。私自身は、建築業界に触れてから好きになれたことはとてもラッキーなことだと思っています。すべての人が一つの業界に触れてすぐに好きになるというわけではなく、やはり触れてみないとわからないです。ものを知らないと、見えないということばがあります。これはバードウォッチングでよく使われることわざで、鳥の鳴き声を知らなければ、鳴き声が聞こえても聞こえないのと同じだという意味です。だから就活も同じで、業界や仕事を知らないと、自分の認識の中に存在しないのと同じで、その良し悪しがわからないのだと思います。とにかく、近道なんてないので、自分に合っていると思ったら、調べて、体験してみましょう。やっていて楽しいと思えば続ければいいです。
Q
試行錯誤をするにはコストがかかると思いますが、一般人はどうすればいいのでしょうか?
A
年齢的なプレッシャーがあるとかほかの何かのプレッシャーとか、よく聞きますが、一生従事する仕事に比べれば、これらのコストは許容範囲だと思います。人が仕事をどう見るかによって決まります。家族に重点を置いている人は多いです。仕事は給料を得るための手段でしかなく、毎日家族と一緒にいることが非常に幸せだと思っています。しかし、仕事を一生の事業にしたいとか、人生において非常に重要なものにしたいと思うのであれば、自分が好きなことを見つけるまでは、試行錯誤する必要があります。建築界の大御所である安藤忠雄さんは、最初はボクサーで、54歳から、独学で建築を始めたのです。最後、大きな成功を遂げました。自分のキャリアをより重視しているのに、最初から好きなことが見つかる幸運に恵まれないのであれば、試行錯誤しながらそれを見つけましょう。
Q
日本語学習者に一言お願いします。
A
言語を新たに学ぶということは、新しい世界を知ることにつながると思います。日本語を学ばなければ、日本の資料はすべて閉ざされた世界となり、その情報を得るためには他人の翻訳に頼らなければなりません。しかし、翻訳されないものもあります。例えば建築では、日本の建築家はたくさんいて、特に70年代から80年代にかけては、日本の建築理論がたくさん広まり、一時期、メタボリズム理論やポストモダン建築理論などは、欧米でも長い間追求されました。しかし、これらの古いおじいさんたちが書いた本は、中国語はおろか英語にも翻訳されていないのです。建築界では、深い建築理論を学ぶ場合、こうした日本の建築家の理論を避けて通ることはできません。日本語がわからない人は、このセクションを読み飛ばすか、簡単な英訳や中国語訳を見て、ごく大まかに理解するしかありません。その場合、知識全体の理解だけでなく、当時の歴史の理解にも大きな壁が立ちはだかることになります。日本語を学べることは、とてもラッキーなことだと思います。日本には、建築であれ、他の業界であれ、多くの知識のエッセンスの蓄積があるので、日本語を学んだ後には、多くの新しい扉が開かれることでしょう。日本語そのものは主役ではないかもしれませんが、その背後にある知識や文化はとても大きな宝物です。日本語ができるという事実を大切にして、このツールを通してより広い世界を知ってほしいです。
Q
お勧めの本やお気に入りの日本語のフレーズがあれば教えてください。
A
今は知識の移り変わりがとても早く、多くの本があっという間に市場に出回ってしまうので、具体的なお勧めの本はありませんが、もっと多くの本を読んで、もっといろいろな人の見方や考え方を知り、自分なりの自立した思考力や判断力を持てるようになってほしいと思います。
私の好きな言葉は「一期一会」です。この広大な世界の中で、出会うことができることは非常に稀なことです。この世界には非常に多くの人がいて、毎日非常に多くのことが起こり、偶然の中で、2人の人または2つのことが出会うことができるのです。だから、仕事や生活上で出会ったあらゆる機会を大切にして、今を生きることが大切だと思います。
取材日:2024年5月22日
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